出ジャパン記

出ジャパン記

2025年までに完全に日本脱出することが目標

イミテーション・ゲーム / The Imitation Game

 

 監督:Morten Tyldum (ノルウェーの方!)

 

・あらすじ

公式サイトより引用。

”1939年、イギリスがヒトラー率いるドイツに宣戦布告し、第二次世界大戦が開幕。
天才数学者アラン・チューリングベネディクト・カンバーバッチ)は、英国政府の機密作戦に参加し、ドイツ軍の誇る暗号エニグマ解読に挑むことになる。エニグマが“世界最強”と言われる理由は、その組み合わせの数にあった。暗号のパターン数は、10人の人間が1日24時間働き続けても、全組合せを調べ終わるまでに2000万年かかるというのだ――!
暗号解読のために集められたのは、チェスの英国チャンピオンや言語学者など6人の天才たち。MI6のもと、チームは暗号文を分析するが、チューリングは一人勝手に奇妙なマシンを作り始める。子供の頃からずっと周囲から孤立してきたチューリングは、共同作業など、はなからするつもりもない。 両者の溝が深まっていく中、チューリングを救ったのは、クロスワードパズルの天才ジョーン(キーラ・ナイトレイ)だった。彼女はチューリングの純粋さを守りながら、固く閉ざされた心の扉を開いていく。そして初めて仲間と心が通い合ったチューリングは、遂にエニグマを解読する。
しかし、本当の戦いはここからだった。解読した暗号を利用した極秘作戦が計画されるが、それはチューリングの人生はもちろん、仲間との絆さえも危険にさらすものだったのだ。さらに自分に向けられるスパイ疑惑。そしてチューリングが心の奥に隠し続け、ジョーンにすら明かせなかった、もう一つの大きな悲しい秘密。
あらゆる秘密と疑惑が幾重にも積み重なり、チューリングの人生は思わぬ方向へと突き進んでいくが――。"

 

・感想(ネタバレあり)

久々に心打たれる良い映画を見た、というのが見終わった時の感想。 

エニグマの暗号解読のことに関しては、ただただすごいと思うし、自分には何回生まれ変わっても理解できない次元の話で、歴史的に見ても素晴らしいことを成し遂げた人だな、と驚嘆するしかない内容。その中にもアラン・チューリングという人物像がきちんと描かれていて、ただの戦時の英雄の功績を描いた話とか、戦争の悲惨さを描いた話では無いところが好きだな。冒頭に出てくる青酸カリ、途中に出てくるリンゴの演出も、青酸カリ入りのリンゴで自殺した(という説が有力な)アラン・チューリングへのリスペクトが現れているし。歴史的にも興味深くて、第二次世界大戦時の話でありながら、戦争ものというよりはヒューマンドラマとしての深みを楽しめた。次イギリスに行ったら絶対ブレッチリー・パークを訪れようと心に決めた。

 

ようやく映画の最終局面も終えてホッとしたところで、ジョーンがアランの家に訪れてくるシーン。もう暗号も解読して気を抜いてたけど、この最後のシーンは短いながら、このシーン以前の映画全体の残り大部分を占めてる暗号解読の話と同じくらいインパクトがあって、感情を揺さぶられる素晴らしいラストシーン。

同性愛者としてわいせつ罪に問われ、国から強制ホルモン投与をされるなんて、聞いた瞬間なにかものすごい怒りとか絶望感とか悲しみとか色んな感情が混ざり合って胸が張り裂けそうな思いになった。同性愛を薬で排除しようなんてどうかしてるし恐ろしすぎる。

クロスワードをやろうとジョーンに言われてペンを握るも、薬のせいで思うように頭が働いていない様子のアラン。薬の影響による自分の能力の低下には本当にやりきれない思いだったと思う。そのアランの絶望の様子と、そんな風に変わってしまったアランを見るジョーンの目。このシーンは切ない。演じていたベンも自然と涙が止まらなかったそう。

こんなにも偉大なことを成し遂げた人でも、実績を闇に葬られて、そんなことに人生を奪われてしまうなんて。戦争の集結、国家に多大な貢献をしたアランの命も結局は、大きな目的のために犠牲になったピーターの兄や、エニグマを解読したことがドイツ側にばれないようにするために失われた命と同じように、戦争と国家という大きなものの前では儚すぎる、、、。こんなに優秀な人を41歳で失ったのはイギリスとしても大きな損失だったはずなのに。性的マイノリティや周りと異質だからということに関係なく、その人の個性として尊重されて正当に評価されて、才能が無駄にされないような社会になってほしい。今のイギリスは知らないけど、まだまだ日本はそういうことに対して社会全体が遅れているし。 

 

・セリフについて

映画の中で3回(クリストファーからアランへ、アランからジョーンへ、ジョーンからアランへ)出てくるこのフレーズは、目標に向かって努力していても挫折しそうな時がある誰をも勇気づけるセリフだと思う。

Sometimes it's the very people who no one imagines anything of who do the things no one can imagine.

時として誰も想像しないような人物が想像できない偉業を成し遂げる

 

あと個人的に好きなセリフは、夜にジョーンの家に解読したエニグマのメッセージをアランが持っていくシーンで、そのメッセージを読んだジョーンが
"0600 hours. Weather today is clear. Rain in the evening. Heil Hitler.”

Well, clearly that vital information is going to win us the war.
「6時。天気快晴。夕方雨。ハイルヒトラー。」

まあ!この情報で戦争に勝てそう!

というセリフ。何の役にも立たなそうな天気情報をvital informationと言っていて、こういうイギリスらしい皮肉は面白いし、これが最終的に本当にvital informationになっちゃうからまた皮肉というか、、、このセリフは見終わった後に思い返すと改めて面白い。

 

最近この映画を見た後にたまたま目にした「チューリングテスト」というワード。機械系に全く疎いから始めて聞いた言葉だったんだけど、"アラン・チューリングによって考案された、ある機械が知的かどうか(人工知能であるかどうか)を判定するためのテスト"ということで、最後の方の警察署での取り調べで、エニグマの解読プロジェクトについて話す前と話した後のアランのこのセリフはそういうことだったんですね!!

(話す前)

Would you like to play ? 

ゲームしたい?

It's a game. A test of sorts, for determining whether something a machine or a human being.

ゲームだよ。あるものが機械か人間か判断するテストだ。

(話した後)

Now, Detective, you get to judge. So tell me. What am I ? Am I a machine ? Am I a person ? Am I a war hero ? Am I a criminal ?

さあ、刑事さん、私は何でしょう?私は機械か?私は人間か?私は戦争の英雄か?私は犯罪者か?

 

 ・キャストについて

アランとジョーンを演じているベネディクト(以下ベン)とキーラについて。

アランの神経質な性質、人との関わりや感情表現が苦手なところ、でも自分の得意分野に対しては情熱的なところ、親しい人に対しては心優しいところ、そういった細かい部分をベンが上手く演じていて、上手く自分の気持ちを言葉にできない主人公だからこそセリフには現れないアランの心情を表情で表現していて、彼の繊細な演技を見ていると心打たれるシーンが要所要所にある。

エニグマ解読に関するシーンでは高慢で自信家で独裁的な態度のアランだけど、合間合間にある、チームのメンバーやジョーンとお酒を飲んでるシーンでのアランは、ものすごくリラックスして穏やかでメンバーやジョーンに対して愛が溢れている様子をうまく演じているな、と感じた。ヒューが下ネタの冗談を言ってみんなが笑ってる中、アランは何が面白いのか、という表情をしながらも微笑みながら温かい目で見ている様子が純粋でイノセントな印象を醸し出してる。この情熱的な部分と繊細な部分、両面をみせるベンの演技が素晴らしい。この映画に関するベンのインタビューを片っ端から見たけど、どのインタビューでも思慮深いことを言っていて、実際に演じるにあったって、スクリプトだけじゃなく、本人についてよく調べたり資料を勉強した様子がわかる。彼に関する情報は文書ではたくさん残っているけど、映像記録は残ってないらしく、文書記録と実際に本人に会ったことのある人から話を聞いたりしたらしい。役作りに対する情熱と仕事に対する責任、プロフェッショナルを感じる。ただ、アランの笑い方はGraham Norton(の真似をするベン)じゃん!wと思っちゃったんだけど、本人絶対意識してるよね?違うのかな。ゲイという点で参考にしたのか、、、。

このENGLSIH JOURNALの中で、イミテーションゲームの撮影の裏側を話していて、相変わらずのマシンガントークですが、すごく面白かったです。

キーラとは「つぐない」ぶりの共演で、プライベートでも仲のいい二人の共演シーンは安心感がある。エニグマ解読チームのメンバー選考試験に現れたジョーン。女が候補者な訳ないだろ、という態度をとられるも、能力では男性に劣ってないことをしっかり証明してみせたり、男社会でうまく生きていく術を身に着けている強い女性。当時のイギリスの男尊女卑の社会の中で闘ってきた優秀で強い女性を、私生活でもフェミニストを公言しているキーラが演じていることは喜ばしいことだと思う。

前日にドクター・ストレンジを見て、ベンは相変わらずかっこいいものの、言い方悪いけど中身の無い、アクションやCG技術が見もののアメコミ系の娯楽映画はやっぱり苦手だなーと萎えてたところだったから、ベンは大味でアメリカンなアクション映画系の役をやっているよりもこういうどこか脆い繊細な役をやっている方が素敵だと改めて実感。

ドクター・ストレンジ (字幕版)